僕の地元は水産業が盛んだ。水揚げから加工、販売まで手掛ける企業がたくさんある。僕が思うに、工場勤務のほとんどの人がこの水産加工業に従事しているのではないかと思う。

水産加工業というのは建設土木に並ぶ3Kな業界だ。臭い、汚い、給料が安い…… 僕の地元は製造業では他に縫製工場が有力産業だが、給料が同水準かそれ以上なのに人手が集まらない。入社しても離職率が高いと嘆く業界関係者をたくさん見てきた。水産加工業は縫製のような複雑な作業をすることが少ない単純労働だから、その気軽さが地元の人にはウケているのかもしれない。水産加工業のほぼすべてが地元企業であるのに対し、縫製などの他工場は都市部に本社がある企業ばかりなので、事業縮小による工場閉鎖を恐れて敬遠しているというのもあるだろう。

そんな水産加工業も、ここ10数年は外国人労働者、いわゆる技能実習生の比率が高くなっている。僕の地元は東日本大震災でもろに被害を受けた地域で、以前から人口減少が激しかったのが震災がきっかけでさらに拍車がかかり、2015年の高齢化率は33.5%、2045年には55.4 %と増加し、人口はほぼ半分の6,000人台になる予想だ。

僕の記憶が正しければ、地元最大手の水産加工会社を訪問した14年前の時点で、この企業は27人の技能実習生を雇用していたと思う。当時は隣町との合併で人口が18,000人ほどになっていた頃だが、この頃の水産業は原料費や人件費の高騰という問題を抱え始めた時期でもあるから、そういった意味で技能実習生を導入せざるを得ない事情があったのだろう。当時の実習生は全員中国人だった。

当時も今もそうだが、田舎に住む人の外国人、特にアジア人に対する感情は良いものではない。「女同士で手をつないで歩いている」というしょうもないものから、「中国人同士でつるんでいる」「中国語しか話さない」といったコミュニティやエスニシティに深く関わる部分にまで批判が寄せられていた。

僕がそれを強く感じたのは東日本大震災だった。なりゆきで町内で一番大きい避難所の物資配給をほんの少し手伝っていた時、他の人たちが口々に「何で中国人のやつらは手伝わないんだ」と文句を言っていたのだ。

あの大災害のなかで動かないのは確かに反感を買われるけど、逆に僕は彼女たち(当時、地元の技能実習生はほぼ女性だった。これは今も変わっていないと思う)に同情した。

地震すら経験したことのない彼女たち、情報が遮断された環境で親しい日本人がほとんどいない、日本語を話すこともままならない彼女たちにこれ以上何を要求するのか。自分の意志で来日したとはいえ、日本人よりも低い賃金で懸命に働いて地域経済に貢献している彼女たちは逆に保護されるべき存在なのではないか。僕は内心そういう感情を抱いた。

在日本中国大使館や領事館、雇用先の尽力によって、彼女たちはすぐに一時帰国することができたが、この時の体験は僕に技能実習制度の意味とは何か考えさせられるいい経験になった。

その直後から、中国の景気は格段に良くなり、GDPで日本を追い抜いて世界2位に踊り出た反面、給与面の改善から来日する中国人技能実習生は少なくなった。と同時に、今度はベトナムやインドネシアから実習生を募るようになった。将来の人口減少や生産人口減少を見据えてか、地元企業ではそういった国からの実習生受け入れを加速化させている。

と同時に、地元では技能実習生の雇用に関わるある問題が起きた。

<集団移転>厳しい条件クリアして再建したのに…空き区画にアパート計画 人口減対策急ぐ町と不公平感抱く住民、溝深まる(河北新報)

一見、技能実習生と何の関係もない記事のように見えるが、実はこのアパートは技能実習生向けの寮として建設予定の建物だった。

地元ではこのアパートを所有予定の業者が町長の関係者だったことから、地元版森友・加計問題と表現する町会議員が現れた他、周辺住民にも不公平感からの批判が多く寄せられ、町長が住民説明会で謝罪し計画は凍結に追い込まれた。

親戚同士が隣り合って土地を所有することができない、区画ごとの面積が小さいなど、住民にとって制約が大きい集団移転宅地造成が、一企業のみ2区画にわたって所有を許可されるなど、住民にはとても受け入れられなかっただろう。だが、僕が注目したのはそこではなかった。

周辺住民を対象にした説明会で、このような発言があったのだ。

「寄宿舎の入居者に地域のルールを守ってもらえるか心配だ」

僕は本当にがっかりした。多文化共生社会が叫ばれている世の中で、このような意識が地元では未だ根強いのかと愕然とした。

田舎の人間の典型的思考に「郷に入っては郷に従え」がある。つまり先に住んでいる俺たちがルールで、それは変えようがない絶対的なものなのだ、ということである。行政が他地域からの移住促進を推進しているなかで、こうしたムラ意識が強い人間が大手を振って歩いているのに、僕は憤りすら覚えた。この人たちは自分が住む町の将来について何も知らないと同時に、何もしようとも考えようともせずに、自分のことばかり考えてただしぼんでいくだけなのだ。

在留外国人が地域に溶け込めない理由は言葉の壁が大きいだろう。日本語表記やローマ字表記、簡易だけど微妙にニュアンスが伝わりにくい英語表記しかない地元にとって、彼らが地域のルール(特にゴミ出しや騒音問題など)を知って理解するにはハードルが高すぎる。それを解決するには公共の表示を多言語化するのはもちろんだが、同時に住民や在留外国人の言語・文化的な相互理解が必要だろう。具体的には国際交流に理解や興味のある住民を対象に、僕の地元の場合は中国・ベトナム・インドネシアを対象にした文化・語学講座を受講してもらい、修了者をチューターにして受講した国出身者の生活などの相談にあたるというものだ。

この制度はベルギーのメヘレンでほぼ似たようなものが行われている(“ベルギー最悪の街”を変えた“世界一の市長” その秘策とは?(NHK))。

メヘレンではこの制度を導入してから、それまで差別されてきたアフリカや中東出身の移民との間の相互理解が深まり、地域問題となっていた移民による犯罪での治安悪化が解決されつつあるという。僕はこの制度をぜひとも地元に導入してもらいたい。

そして、単なる労働者として扱われている技能実習生を、就労ビザを取得させ正式な社員として雇用することもこれからの地元経済や人口対策に必要なように感じる。

東大阪市の大阪銘板では、外国人を正式な労働者として雇用している。求人条件は製造業のせいか他業種より給与面で見劣りするが、それでも地方都市で暮らせる水準だ。

大阪銘板では以前まで技能実習制度を利用していたが、実習生の最長実習期間が5年間ということもあり、技術に習熟してきた頃に帰国してしまうことにより熟練工の確保が問題になっていた。しかも製造業は日本人に敬遠されつつある。そこで大阪銘板では発想を変えて外国人労働者の正式雇用を始めたわけだが、これが大当たということだ(詳しくは求む!外国人正社員(NHK))。

水産加工業ではまだまだ難しいかもしれないが、熟練工の養成という製造業・建設業に共通した課題は、これからの生産人口減少に対応するには喫緊の問題なのかもしれない。そのための外国人労働者の活用はこれからどんどん広まっていくだろう。もとい、広まりつつある。それに伴う文化的。言語的な諸問題を解決しつつ、多文化理解から多文化共生に発展し、誰にでも開かれた日本を作り上げていくべきなのではないだろうか。